[滝山川ダム発電所プロジェクト]

2年という短い工期を支えたのは、重圧に打ち勝つ現場力と確かな技術。 2年という短い工期を支えたのは、重圧に打ち勝つ現場力と確かな技術。

滝山川発電所の改修工事において現場代理人を務めたのは、入社29年、水力発電業務に20年以上、携わってきた弓田弦だ。現場経験の長い弓田にとっても「記憶に残る難しいものであった」と振り返る。
この滝山川発電所は、王泊ダムを用いた水力発電所で最高有効落差は314.8m。改修工事は最大出力51,500kWから52,500kWへと出力の効率化を行うために計画され、2019年5月に工事がスタート。2021年3月の運転再開までに与えられた時間は2年。弓田の最初のミッションは、納期を死守するための工程づくりであった。
改修工事などにおいては、中電プラントのような設備の建設を行う企業のほか、土木を請け負うゼネコンなど多くの企業が参画する。本来は、異なる業務を受け持つ企業が現場を共にし、作業を同時並行で進めることはほとんどない。だが、弓田は土木を担当する熊谷組との乗り合い作業を決断した。それは納期を完遂するために悩んだ末のロードマップであった。

実際の工事が始まると、そこには新たな試練が待ち受けていた。「改修で取り壊したスクラップの除却にとても苦労した」と弓田は言う。
除却に用意できる時間は約2ヶ月。総重量400tの鉄屑を施設内から運び出すことは至難の業である。一度に質量の大きなものを引きずり出すと建屋を壊す可能性があるため、作業は慎重を期す。搬出のために小さくカットするほどに時間がかかり、現場は困難を極めた。
さらに、弓田に追い打ちをかけたのがスクラップの施設外への運搬だ。発電所の敷地内には資材置き場がなく、保管が不可能であった。しかし、発電所までは細い山道が続くため、トレーラーで何度も大量の鉄屑を運び出すこともできない。緻密に計算された作業管理でこの局面を乗り切るしか方法はなかった。「普段は、工事に入る前に8割程度の見込みがつけられているが、このプロジェクトは2〜3割しか目処が立てられなかった」と言うほどに、プレッシャーのかかる現場であった。
その後、新しい設備の据え付け作業へと移行。誤差0.03㎜以内という精密な工事を滞りなく終えて一連の改修工事プロジェクトを完遂した弓田。「やっと終わった」ではなく「もう終わったのか」と感じたほどに走り続け、充実した2年間だった。
耐久年数が長い発電所の工事は、在職期間中に何度も経験するものではない。当プロジェクトは、仲間だけでなく引退した先輩や火力発電の専門職からの意見も仰いだ。それゆえ「仲間の大切さを改めて実感した仕事だった」と話す。
弓田は、先輩たちから技術と経験を引き継いだように、現在は若手の指導に力を入れている。水力というCO2を出さない、サステナブルな発電を下支えする優秀なエンジニアの育成は、中電プラントの将来だけでなく、日本の未来にも光を感じさせてくれる。

広島支社 水力課
弓田 弦

入社29年のうちのほとんどを水力発電の設備維持・管理に携わる。
現場の総責任者である“現場代理人”を担うなど、水力発電設備のプロフェッショナル。

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